この記事の要点
- 病気がないのに「呼吸が浅い」と感じるとき、多くは胸の上部だけで速く吸うクセと、前かがみ姿勢で肋骨が広がりにくくなっていることが背景にあります
- 呼吸は横隔膜や肋間筋という「筋肉の仕事」です。筋肉である以上、使い方は練習でき、強さも変わります
- ピラティスでは肋骨を横に広げる胸式呼吸(ラテラル呼吸)を、動きと合わせて練習します
- 臨床試験では、ピラティスを続けた人で息を吸う筋力(最大吸気圧)や一回に取り込める空気の量が増えたという報告があります。ただし研究は小規模で、効果の幅には個人差があります
- 安静にしていても息苦しい・胸が痛い・動悸がするときは、運動の前に内科・呼吸器内科を受診してください
「呼吸が浅い」とは、何が起きているのですか?
結論から言うと、病気がない場合の「呼吸が浅い」の多くは、横隔膜をあまり使わず、首や肩の筋肉で胸の上部だけを持ち上げる呼吸になっている状態です。
呼吸の主役は、肺そのものではなく横隔膜と肋間筋という筋肉です。息を吸うとき、横隔膜が下がり、肋骨が横と後ろに広がって、肺に空気が入ります。ところが——
- デスクワークやスマホで前かがみ姿勢が続くと、肋骨まわりの動きがかたくなり、胸郭が広がりにくくなります
- 広がらないぶんを補うために、首・肩の筋肉で吸うクセがつきます(肩で息をする状態)
- 浅く速い呼吸は首こり・肩こりとも関係し、「吸っても入ってこない感じ」につながります
つまり「呼吸が浅い」は気のせいではなく、姿勢と筋肉の使い方の問題として説明できることが多いのです。
ピラティスの呼吸は、何が違うのですか?
ピラティスではラテラル呼吸(胸式呼吸)という呼吸法を使います。鼻から吸って肋骨を横に広げ、口から長く吐きながらお腹の深層(腹横筋)を薄く締める——これを、マシンの動きと必ずセットで行います。
- 肋骨を横に広げる:かたくなりがちな胸郭の側面・後面を動かす練習になります
- 吐く息で深層の筋肉を使う:腹横筋・骨盤底筋・横隔膜は「インナーユニット」と呼ばれ、体幹の安定に一緒に働きます
- 動きと呼吸を合わせる:マシンのバネの抵抗に合わせて吐くので、呼吸筋に自然な負荷がかかります
「深呼吸を何回かする」のではなく、レッスンの間ずっと呼吸を使い続けるのがピラティスの特徴です。
呼吸は鍛えられますか?|臨床試験の結果
変わり得る、というのが研究の答えです。
- 健康な成人女性を対象にしたランダム化比較試験では、ピラティスのプログラムを続けたグループで、息を吸う筋力(最大吸気圧)と一回換気量(1回の呼吸で取り込む空気の量)が増加したと報告されています
- 高齢の女性を対象にした試験でも、呼吸筋のトレーニングとピラティスを組み合わせることで肺機能と吸気筋力が改善しました
- 別の試験では、ピラティスで呼吸筋の強さとお腹の深層筋の厚みが同時に増えたことが報告されています。呼吸と体幹がつながっている、という理屈どおりの結果です
ただし、正直にお伝えすると——これらの研究は人数が数十人規模と小さく、対象も限られています。「肺が大きくなる」「病気の息切れが治る」という話ではありません。変化の感じ方には個人差があります。
デスクワークと呼吸|姿勢から整える理由
一日中座っていると、背中が丸まり、肋骨が下がり、胸郭の「風船」がふくらみにくい形で固まっていきます。この姿勢のまま呼吸だけ練習しても、入れ物がかたいままです。
ピラティスが呼吸の練習として理にかなっているのは、背骨と肋骨の動きを取り戻しながら呼吸を練習できるからです。猫背・巻き肩との関係は姿勢改善のコラムで、座りっぱなしと腰の関係はデスクワーク腰痛のコラムで詳しく書いています。
体験30分でやること
- 呼吸の確認:今、どこで吸っているか(肩か、お腹か、肋骨か)を一緒に確かめます
- ラテラル呼吸の練習:肋骨に手を当てて、横に広げる感覚をつかみます
- マシンで動きと呼吸を合わせる:バネの支えがあるので、体がかたい方・運動が苦手な方でも無理なく行えます(体がかたい方向けの解説はこちら)
体験は30分・2,200円(税込)。入会金なし・月額なし。マンツーマンなので、呼吸のクセはその場で確認できます。講師の紹介・ご予約はこちら。
こんなときは運動の前に受診を
次の場合は、ピラティスの前に医療機関で確認してください。
- 安静にしていても息苦しい、夜間に息苦しさで目が覚める
- 胸の痛み・強い動悸・ゼーゼーという音を伴う
- 急に息切れがひどくなった、足のむくみを伴う
これらは心臓や肺、貧血などの病気が隠れていることがあります。まず内科・呼吸器内科へ。肩こりや姿勢とあわせて相談したい場合は、当スタジオの1階にある上野医院(整形外科)でも体の状態を確認できます。
よくある質問
Q1. 気づくと口呼吸になっています。直りますか?
練習で変えられます。レッスンでは「鼻から吸って口から吐く」を動きとセットで繰り返すので、呼吸の入口から整えていけます。日中のクセは一度には変わらないため、まず運動中だけ正しくできることを目指します。
Q2. どのくらいで変化を感じますか?
研究では8〜12週間程度のプログラムで呼吸筋力の変化が報告されています。体験の30分でも「肋骨が横に動く感覚」はつかめる方が多いですが、定着には継続が必要です。※感じ方・変化には個人差があります。
Q3. 腹式呼吸とどちらが正しいのですか?
どちらも正しい呼吸です。リラックスには腹式が、体幹を安定させて動くときには肋骨を使う胸式(ラテラル呼吸)が向いています。ピラティスで胸式を練習するのは、動きながらお腹の深層を使い続けるためです。
Q4. 緊張すると息が浅くなります。関係ありますか?
関係します。緊張時は呼吸が速く浅くなるのが自然な反応です。ゆっくり長く吐く練習は、その切り替えの練習にもなります。ただし、不安感や息苦しさが日常生活に支障をきたすレベルで続く場合は、医療機関にご相談ください。
Q5. 声や歌、ランニングにも役立ちますか?
呼吸筋の強さと肋骨の動きは、発声や運動時の息の持ちと同じ土台を使います。研究で確認されているのは呼吸筋力や肺機能の指標の変化までですが、「息が続きやすくなった」と感じる方はいます。※個人差があります。
まとめ|呼吸は「練習できる動き」です
「呼吸が浅い」は体質ではなく、姿勢と筋肉の使い方から説明できることが多い——だから練習で変えられる余地があります。深呼吸を頑張るより、入れ物(胸郭)を動かしながら呼吸すること。それがピラティスの呼吸練習です。
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参考文献
- The respiratory effects of a Pilates method protocol: Randomized clinical trial. J Bodyw Mov Ther. 2022(最大吸気圧・一回換気量の増加)
- The influence of inspiratory muscle training combined with the Pilates method on lung function in elderly women: A randomized controlled trial. J Phys Ther Sci. 2018. PMID: 29924184
- The Pilates Method increases respiratory muscle strength and performance as well as abdominal muscle thickness. J Bodyw Mov Ther. 2016


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