柔らかくなりたい人が、ストレッチだけでは足りない理由【医師監修】

相対的柔軟性の概念図:同じ力でも、ゆるい蝶番から動く。体も動きやすい場所から先に動く

「毎日前屈しているのに、床に手がつくようにならない」「ストレッチ直後は伸びた気がするのに、翌日には戻っている」——体験にいらっしゃる方から、本当によく聞く言葉です。

実は、リハビリの世界には相対的柔軟性という考え方があります。結論から言うと、体は「かたい場所」ではなく「動きやすい場所」から先に動く。だから、かたい筋肉を伸ばすだけでは足りないことがあるのです。

目次

前屈で伸びているのは、どこ?

ドアを2枚思い浮かべてください。片方は蝶番(ちょうつがい)がかたく、もう片方はゆるい。同じ風が吹けば、開くのはゆるい方です。

相対的柔軟性の概念図:同じ力でも、ゆるい蝶番から動く
図1:同じ力がかかっても、動くのは「ゆるい蝶番」のドア。体も同じで、動きやすい場所から先に動きます。

体も同じです。ももの裏(ハムストリングス)がかたい人が前屈すると、股関節というドアが開かないぶん、隣の腰という「ゆるいドア」が先に開きます。腰が丸まることで、手は床に近づく——でも、ももの裏はそれほど伸びていません。

前屈の比較図:腰だけが動く例と股関節から曲がる例
図2:左は腰だけが丸まる前屈、右は股関節から曲がる前屈。ももの裏がかたいと、腰が代わりに動きやすくなります。

つまり「毎日前屈しているのに柔らかくならない」は、伸ばしたい場所が伸びる前に、別の場所が動いて終わっている可能性があるのです。しかも、いつも同じ場所(腰)が肩代わりし続けると、そこに負担が集まっていきます。

ストレッチを捨てる必要はない。足し算をする

かたい筋肉を伸ばすこと自体は間違いではありません。足りないのは、あと2つです。

  1. 伸ばす——かたい筋肉は、痛みのない範囲で伸ばす
  2. 支える——動きすぎる場所(腰・骨盤)を、軽い筋収縮でその間だけ支える
  3. 動きを学ぶ——支えたまま、動かしたい関節(股関節)から動く練習を繰り返す

たとえば座って膝を伸ばすストレッチなら、骨盤を起こして腰の自然なカーブを保ったまま、保てる範囲だけ膝を伸ばす。膝がどこまで伸びたかではなく、腰が動かずにいられたかを成功の基準にします。実験でも、腰と骨盤を中間の位置に保つと、腰の余計な動きが減ることが確認されています。

研究の裏付けもあります。慢性腰痛の方149人を対象にした臨床試験では、動作の練習(支えながら動く練習)が、筋力・柔軟性の運動よりも生活の障害度を改善しました。「とにかく伸ばす・鍛える」より、「動き方を変える」が効いたのです。※効果には個人差があります。

ピラティスは「支えながら動く」練習そのもの

ここまで読むと、お気づきかもしれません。「支えたまま、動かしたい場所から動く」——これはマシンピラティスで毎回やっていることです。

  • マシンのバネが体を支えてくれるので、支える感覚がつかみやすい
  • 骨盤と腰の位置を保ったまま、脚や背骨を動かす課題が中心
  • マンツーマンなので、「いま腰が動きましたよ」とその場で代償に気づける

「柔らかくなること」自体を目的にしなくても、支える場所と動かす場所の役割がはっきりしてくると、前屈のような動きは変わっていきます。体がかたいままで始めてよい理由は、こちらのコラムにも書きました。

体験30分でやること

  1. 前屈や座位の膝伸ばしで、どこから動いているかを一緒に確認します
  2. 骨盤を起こして「支える」感覚を、マシンの補助つきで練習します
  3. 支えたまま動く課題を1〜2種目。終わったあと、最初の前屈と比べてみます

体験は30分・2,200円(税込)。入会金なし・月額なし。講師の紹介・ご予約はこちら。

こんなときは運動の前に受診を

  • ストレッチやマッサージを続けても痛みが悪化する、2週間以上よくならない
  • 脚のしびれ・力の入りにくさを伴う
  • 夜間や安静時にも痛む

筋肉の柔軟性以外の原因が隠れていることがあります。当スタジオの1階は整形外科(上野医院)です。レントゲンと診察で確認してから運動を始められます。クリニック側の詳しい解説はストレッチしても戻るのはなぜ?(上野医院・整形外科コラム)をどうぞ。

よくある質問

Q1. 柔らかくなるのを諦めろ、ということですか?

いいえ。順番の話です。支える場所が決まると、伸ばしたい場所に伸びの刺激が届きやすくなります。柔軟性の変化はそこからついてくることが多いです。※個人差があります。

Q2. ヨガやストレッチ教室とは何が違うのですか?

伸ばすことが中心の時間と、「支えたまま動く」ことが中心の時間の違いです。どちらが上ではなく目的が違います。当スタジオにはヨガのクラスもあるので、目的で使い分けられます。

Q3. 体がやわらかい人には関係ない話ですか?

関係あります。やわらかい人ほど「動きやすい場所」が肩代わりしやすく、特定の場所に負担が集まることがあります。支える練習はやわらかい人にこそ役立つ場面があります。

Q4. 家でできることはありますか?

座って骨盤を起こし、腰の形を保ったまま膝を伸ばす練習がおすすめです。腰が丸まり始めたら止める。膝は曲がったままで構いません。

Q5. どのくらいで変化を感じますか?

研究では数週間〜数か月のプログラムが使われています。動きの癖は繰り返しで変わっていくものなので、週1回+日常のワンポイントから始めるのが現実的です。※個人差があります。

まとめ|「どこを伸ばすか」より「どこから動くか」

体は、かたい場所ではなく動きやすい場所から動く。だから、伸ばすだけでなく、動かす場所を動かすために、支える場所を支える。ピラティスはその練習です。

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参考文献

  • Sahrmann S, et al. Diagnosis and treatment of movement system impairment syndromes. Braz J Phys Ther. 2017;21:391-399.
  • Van Dillen LR, et al. Effect of Motor Skill Training in Functional Activities vs Strength and Flexibility Exercise on Function in People With Chronic Low Back Pain: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2021;78:385-395. PMID: 33369625
  • Park KN, et al. Effects of Lumbopelvic Neutralization on the Electromyographic Activity, Lumbopelvic and Knee Motion during Seated Knee Extension in Subjects with Hamstring Shortness. J Phys Ther Sci. 2012;24:17-22.
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